シマウマの縞模様は、吸血バエ(ウマアブなど)の「着地回数を劇的に減らす」ために機能している可能性が高い――これが近年の現場実験から見えてきた答えです。しかも「縞だけが特別」ではなく、強いコントラストのパターン(チェック柄など)でも同様の効果が見られました。
この記事では、一般の方にもわかる言葉で、研究のポイントと仕組み、日常への応用までを丁寧に解説します。
今回の参考論文はこちら
https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rspb.2020.1521?utm
実験方法|本物のハエで“野外検証”
研究では、22頭の馬に以下の5種類の“コート(覆い布)”を着せて、野外で吸血バエの行動を記録しました。
- 黒(無地)
- 灰色(無地)
- 縦縞
- 横縞
- チェック柄
観察したのは、ハエの着地回数と飛行の仕方(接近距離や速度)です。つまり「ラボの仮想環境」ではなく、実際の屋外で“本番の虫”を相手に確かめています。
結果|縞とチェックで「着地」が桁違いに減る
- 黒・灰の無地では、ハエの着地は2〜3回/分。
- 一方、縞・チェックでは、着地は約0.2回/分にまで激減。
数字を見れば一目瞭然。縞=強い白黒コントラストが、ハエの着地行動を大きく抑えていることがわかります。しかも「チェック柄」でも同様に減るため、“縞だけが魔法の模様”ではない点が重要です。
接近の仕方とスピード
飛行の分析では、無地の灰色だとハエは30cm以内まで近づきやすいのに対し、模様あり(縞・チェック)では近寄りにくくなります。さらに、模様の近くでは減速せず速く飛ぶ傾向が増え、着地せずに通過しがちでした。
つまり、「直前での着地キャンセル」を誘うのが、縞やチェックの強みだと考えられます。
「縞が目を惑わす」説は不十分
よくある説明に「縞で動きが錯覚して近づきにくくなる」というものがあります。しかしこの仮説は“平行な縞で起こるはず”という前提が強い。現実にはチェック柄でも同じ効果が出ており、縞の向き(縦・横)でも大差がないため、“縞だけ”に依存する説明では足りないのです。
仕組みをやさしく:エイリアシングと“期待はずれ”
有力視される仕組みは、ざっくり次の2つです。
- エイリアシング(見え方のズレ)
規則的な模様が動くと、ハエの視覚で模様の読み取りが乱れやすくなります。すると進路決定が不安定になり、着地に至らない――という考え方です。 - “宿主らしさ”の期待を外す
ハエは「これは吸える宿主だ」という見た目の期待を持って接近します。ところが強い白黒模様はその期待から外れ、最後の瞬間に『違う』と判断して離れる、と解釈できます。
どちらの見方も共通しているのは、「強いコントラストのパターンが、着地の最終判断を崩す」という点。だからチェックや斑点でも一定の効果が見られるわけです。
ハエの目の認識能力は?
ハエの目の分解能だと、2m以上離れると縞は細かすぎて灰色に見えます。ところが0.5〜1mに入ると模様が模様として識別され、行動がガラッと変わる。
このことは、“最後の最後で着地をやめさせる”という現象とピタリ一致します。効果の主戦場は直前距離なのです。
縞だけじゃない|匂い・行動も
シマウマは、模様だけでハエを避けているわけではありません。体臭の成分、尾や耳の動き、走って逃げる行動など、複数の対策が組み合わさって、刺されるリスクを下げています。
縞模様はその中の重要な一手。“見せ方×匂い×行動”の総合防御として理解すると腑に落ちます。
人間への応用|服・馬具・家畜で試せる?
- 衣料:屋外で刺すハエが多い環境なら、白黒の強いパターンのウエアは試す価値あり。
- 馬具:競走馬や乗馬クラブでも、ゼブラ柄のフライシートが普及しつつあります。
- 家畜:牛の体に縞を描いた実践例では刺されにくくなった報告も。地域・種による差はありますが、薬剤に頼り切らない補助策として期待できます。
もちろん、季節・地域・対象の虫の種類で効果は変動します。完全防御の“決め手”ではなく、既存の防虫対策(忌避剤、ネット、行動管理)と組み合わせるのが現実的です。
来そうな質問を予想して勝手に答えていくコーナー
Q1. 縞の太さや向きは関係ある?
A. 大きな決め手ではないとみられます。縦でも横でも効果は確認され、チェック柄でも効くため、コントラストの強さがより重要です。
Q2. 遠くからでも効く?
A. 主に近距離(0.5〜1m)で効きます。2m以上では縞がただの灰色に見え、効果は薄れます。
Q3. ハエが「近づけない」の?それとも「最後にやめる」の?
A. 両方の要素がありますが、データからは直前での着地キャンセルが際立っています。模様の近くで減速せず通過する行動が増えるのがポイントです。
Q4. 人でも“ゼブラ柄”の服は効果ある?
A. 環境次第ですが、一定の抑制効果が期待できます。とはいえ、虫除け成分やネットなど他の対策と併用してください。
まとめ
- 縞模様(およびチェックなどの強いパターン)は、吸血バエの着地回数を大幅に減らす
- 効果の中心は0.5〜1mの直前距離での着地キャンセル
- 「縞が動きを錯覚させる」だけでは不十分。エイリアシングや期待外れ効果など、最終判断を狂わせる仕組みが関与
- 匂い・行動・模様の複合防御として理解し、衣料・馬具・家畜管理への応用が現実的
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